どうせ、のカード
私の物心ついたころから母は働いていて、私が小学校の高学年くらいの間、たしかほんの数年間だけ仕事してない期間を除いて、母はずっと、仕事をしていた。
夜中まで、家に帰ってこなかった。
大丈夫、一人でいる方が気が楽だし。
私はいつも、そう言っていた。
母は「おまえは、しっかりした子だから、大丈夫だよね」
と言っていた。
カギっ子だったけれど、大けがをしたり、病気の時、困ったときのために、母は、会社の電話番号をわたしに教えていた。
そして、時々電話した記憶がある。
たいしたことないのに、電話したような記憶もある。
迷惑をかけてはいけない、と罪悪感がありながら、電話した。
ちいさいころ、私はよく、怪我をした。
クラスの友達(男子)をおもいきりなぐったり、問題をおこした。
わざわざ、困ったことを起こした。
電話せざるをえないようなことを、起こしていたのだ。
ひとりでいるのは、平気なんかじゃなかった。
しっかりした子なんかじゃない、と言いたかった。
(話を聞いて)
(お母さんの声を、聞かせて)
(甘えさせて!!)
これを、わたしは、今でも繰り返している。
わざわざ、わたしのことを、寂しくさせるようなひとばかりを選んで、じぶんのまわりに置こうとする。
『ああ、やっぱり、寂しいおもいをさせられるんだなぁ』を、繰り返すために。
しっかりしているフリをまずは演じて、そのあと、しっかりしてないことを、そのひとの前で、証明してみせたりする。
『一人で、放って置かれる人』を、何度も、繰り返す。
『一人で、放って置くと、怪我をしたり、病気をしたりする』を繰り返す。
一人で大丈夫だよね。
一人で、できるよね。
一人で、放っておいたほうが、あなたは、楽そうだし。
そう見られるようにしていないと、お母さんを心配させるから。
一人でいるのが、好き、と何度もひとに言う。
ひとりになるような扱いを受ける。
ひとりになるできごとが、あつまってくる。
ああ、やっぱり、わたしはひとりなんだな、と思う。
結果。
一人でいるのが、楽だし、じぶんなんだ、と思っている。
じぶんで、じぶんを、そういうひとだと、思い込んでいる。
ほんとうに、そう?
一緒にいて欲しい、と思っているんじゃないの。
一緒に解決してほしい、と思っているんじゃないの。
ひとりでいたら、ふとんかぶって寝るか、ともだちを探しに行くだけで、一人で解決する能力など、ほんとうはない。
私は、謝らせようとしていた。
「寂しかったんだね、ごめんね」
を言わせようとしていた。
態度に出して、
声にだして、
それを説明してくれないから、拗ねて、言わせようとしていた。
たくさん怪我をしたり、病気になるようなことしたり、まわりの人たちと問題を起こしていた。
もうやめたい。
「どうせ、わたしは、一人で放っておかれる」
を、やめたい。
拗ね続けるほうが楽だから。
いまさら恥ずかしくて、ずっと握っていたものを放したくないだけで。
降参しよう。
本当は知っていたんだ。
見守られていたことを。
いつも、助けてくれてたことを。
さんざん拗ねて、反抗していた相手に向かって、これを言うのが、恥ずかしかったんだ。
「ありがとう」
って。
「いつも、見守ってくれてたの、知ってた。」
「たいへんなときに、助けてくれて、ありがとう。」
『どうせ、いつも、放っておかれるし』
のカードをめくってみる。
『どうせ、いつも、見守ってくれてたんでしょ』
裏と表で、1セットになっていることに、気付いた。
そうか。
捨てなくても、いいのか。
こんなだめな私は、捨ててしまいたい、と思っていたけれど。
裏に書いてあったことに、ずっと気付かなくて、持っていたカード。
とっておいて、よかったんだ。